投資ファンド等による企業買収の際の使用者性

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少し前の資料で恐縮ですが、投資ファンドが企業を実質的に買収した際の労使関係について厚生労働省が検討したものがあります。なかなか面白いのでそのまま掲載します。

論点は投資ファンドの使用者性のようです。つまり、本来は事業を行うつもりもない投機目的で買収した場合、その投資ファンドは使用者としての責任を負うのかどうか。もし使用者と認められるのであれば、団体交渉に応じる義務、労務管理上の義務、あるいは被用者が第三者に損害を与えた場合の賠償義務などが生じる可能性があります。

 

◆使用者性
この点に関し、検討結果では親会社の使用者性と同じ考え方をしています。つまり「基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある」かどうか個別的に事例を見て判断するとのことです。

これはまさに、実質的に支配している親会社がいた場合に、親会社も使用者であると判断され、団体交渉を求める権利が生じるのと全く同じです。

これについては過去の判例がいくつもあり、
例えば徳島南海タクシー事件(徳島地労委 平成12年6月22日)では、「親会社が株式所有、役員の派遣、下請け関係などにより子会社の経営を支配下におき、子会社従業員の労働条件について現実的かつ具体的な支配力を有している場合には、労働契約上の使用者である子会社のみならず、親会社も子会社従業員の労働条件について子会社と並んで団体交渉上の使用者たる地位にある」との考え方を示した上で、親会社が子会社の資本金を全額出資し、親会社の役員が多数子会社の役員を兼務しているが、親会社が子会社の従業員の労働条件を現実的かつ具体的に支配、決定してきた事実の疎明がないとして、親会社の使用者性を否定

雪印乳業事件(埼玉地労委 平成15年8月28日)では、「子会社の従業員の労働条件について実質的な支配力を有していたことを推認させる具体的事実、たとえば、子会社の従業員の賃金水準を指示・命令していた事実、過去に親会社と子会社の労働組合が団体交渉を行っていた事実などの疎明がない」として、親会社の使用者性が認められる具体例を示唆した上で、当該事案については親会社の使用者性を否定

大阪証券取引所事件(東京地裁 平成16年5月17日)では、子会社が従業員の労働条件について自ら就業規則を決めていたこと、子会社の従業員の賃金、賞与の交渉はもっぱら子会社とその労働組合との間で行われ、労働協約もその両者の間で締結されていたこと、子会社の従業員の労働時間、休憩時間、休日等の労働条件、採用、解雇、配置、懲戒については子会社自身によって決定され、親会社はこれに一切関与していないことなどの事情を考慮して、親会社の使用者性を否定

シマダヤ事件(中労委 平成17年1月18日)では、「シマダヤ〔親会社〕の提示した運賃の引下げと密接に連関してシマダヤ運輸〔子会社〕の運転士の賃金も減額する仕組みとなっており、シマダヤ運輸従業員の賃金及び労働条件は、配送コース別にシマダヤが提示する運賃及びその輸配送実績によって実質的に決定される関係にあった。」として、親会社の使用者性を認めたものなどがあります。

ポイントは、例えば買収により過半数を取得し、役員を大量に送り込んだとしても、それだけでは使用者性が肯定されるわけではないということです。もちろん、株主が取締役を通じて関与し、影響力を行使することも十分考えられますが、実際に積極的に関与していなければ使用者性は認められないことになります。

そして、この検討会で投資ファンドにヒアリングを行ったところ、積極的に労働条件に関与しているところはほとんどなかったとのことです。

「基本的な労働条件について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある」、つまり使用者性が認められる可能性が高いのはどのような場合か、もう少し具体的にすると
・実際に子会社との団体交渉に反復して参加してきた実績がある場合
・労働条件の決定につき、反復して純粋持株会社の同意を要することとされている場合
参照:http://www.jil.go.jp/jil/kisya/rousei/991224_01_r/991224_01_r_matome.html
(本件では子会社→被買収企業、純粋持株会社→投資ファンドとなります)
があげられています。
その他、投資ファンドが積極的に被買収企業の労働条件に口を出すようであれば、使用者性が認められる可能性が高くなるでしょう。

投資ファンドが投資する目的は様々あるでしょうから、その目的に合わせ完全に労務管理を誰かに任せて口を出さないようにするか、あるいは自ら積極的に関与し同時に義務を負うかどちらかにするしかないのでしょう。

◆被買収企業労働組合との関係
もし上記により投資ファンドにも使用者性が認められるのであれば、労働組合からの団体交渉には誠実に対応する義務があります。
一方、使用者性が認められない場合は必ずしも団体交渉に対応する必要はありませんが、被買収企業の経営方針等を投資ファンドが自ら策定するような場合には、投資ファンドと労働組合が日常的に意思疎通を図ることが望まれるとしています。

◆労働条件
労働協約などの労働条件は、投資ファンドによる買収や被買収企業の経営陣の交替によっても、適正な手続きにより変更しない限りはその効力は変わりません。

これは合併などの場合も同じです。合併後はまずそのまま労働条件が継承されます。結果的に1つの会社に2つ以上の就業規則があることになります。これでは不公平が出てくるということで統一することになりますが、いつでも統一してよいわけではなく、不利益変更の問題が同じように生じ、合理性がなければ認められません。
この合理性は不利益の大きさ、その補償、事前準備、説得など多面的に判断することになります。古い判例では、成果主義に変更し1年目は減給分の全額、2年目は半分を調整給として支給、3年目から完全移行としたケースで、1審は代償措置として不十分としたが2審以降は制度周知の努力や組合との交渉を通じて円滑に変更を行おうとしたことなどが評価され、認められたものがあります。

◆参考
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/05/s0526-2.html

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